ITOC 高木丈智 専門研究員 インタビュー
2020年08月04日
しまねソフト研究開発センターでは、平成27年から先駆的研究として機械学習を研究テーマに掲げており、高木専門研究員はこの立ち上げの時から、県内企業との共同研究や人材育成などの活動をしてもらっています。
今回、高木専門研究員にインタビューを行い、島根県において機械学習の黎明期から携わっている経験をもとに、今後力を入れていくべきテーマ・求められるスキル、機械学習に取り組む意義や可能性を語ってもらいました。
(インタビュー日:2020年7月31日)
機械学習に取り組む意義・可能性ついてお聞かせください
第3次AIブーム以降、革新的なAI関連技術が次々と発表されており、ここ数年では「AIの民主化」を掲げた数々のソフトウェアやサービスがリリースされるなど、かつては専門的な知識を持った研究者やエンジニアのみが実装できた機械学習をはじめとするAI技術が誰でも利用できる時代になりました。
また、これまで大量のデータがなければ難しいとされてきた機械学習の実用において、画像の識別や分類、音声の認識や文書の翻訳など、抽象度の高いタスクに対しては「学習済み」の機械学習モデルが拡張プログラムやAPIとして公開されるなど、大量のデータを収集しなくても同技術を用いた付加価値をソフトウェアやサービスに実装することが可能な状況となっています。
文書の電子化やプロセスの効率化・省略化といった既存のICT活用を超える新たな価値提供が求められる昨今において、機械学習を始めとするAI技術はソフトウェア開発の現場で求められる’あたりまえ’の技術になりつつあると言えるのではないでしょうか。
ソフトウェア開発の文脈に加わった機械学習をはじめとするAI技術の特性を正しく捉えるとともに、課題発見やアイディア創出の段階からその適用を発想・提案する力が求められており、その実践の先に、ICTを活用した新たな価値提供の可能性が広がっているのではないでしょうか。
今後力をいれていくべきテーマ・求められるスキルについてどのようにお考えですか
<クラウド×AI>
機械学習を始めとするAI技術の実用には、高い計算能力を持ったコンピューターリソースが必要となる場合が少なくありませんが、クラウド技術の普及と進展によって今では高性能なコンピューターリソースを時間単位で利用できるようになりました。クラウド上のコンピューターリソースを利用することで、高性能なコンピュータの購入や環境の構築に多額の投資をすることなく、誰でも最新のAI技術を試行・評価できる時代となっています。
多くのクラウド事業者から、スケーラブルで可用性の高いクラウドストレージが提供されており、システムのデータは固有のハードウェアに保存する時代からクラウド上に保存する時代にシフトしています。また、AIプロジェクトの初期フェーズで必要となるデータ統合や分析作業を自動化するサービスや、先に述べた学習済のモデルやAPIが次々とリリースされている状況から、今後はクラウド上でのデータ統合・分析作業の効率化や、クラウド上に構築したサービスと機械学習APIなどを連携させたインテリジェントな機能の実現が進むと考えられます。
このような背景から、機械学習を始めとするAI技術を活用するエンジニアには、データ分析や機械学習に関連する技術だけでなく、クラウド技術とAI技術を安全かつ効果的に組み合わせてソフトウェアやサービスをデザインするスキルが求められると考えられます。
<課題とデータ×テクノロジーをつなげる問題設定力>
機械学習を始めとするAI技術が、’あたりまえ’の技術となりつつある一方で、AIプロジェクトの実情に目を向けると、AI技術を活用する際の「問題設定」が適切に行われなかった結果、概念実証のフェーズを繰り返し機能やサービスの開発に進めない事例や、機能やサービスは開発したものの期待された価値提供に至らないといった事例が少なくない状況にあるようです。
AI技術の活用と一言で言っても、現場における課題の捉え方や課題に対するAI技術の適用方法は様々です。例えば、工場の製造ラインで取得した原材料データやセンサーデータに加えて、製品の検査データが得られる現場にAI技術を活用するといった場合、「製品品質の向上」を実現したいのか、あるいは「製造ラインに配置する人員の最適化」を実現したいのか、利用できるデータをビジネス価値に照らし合わせて目的設定するスキルが求められます。
そして、設定された目的に対して、利用できるデータから「製品ごとの良否を予測」するのか、それとも「期間内の製品不良率を予測」するのか、あるいは「期間内の不良率が一定の基準を超えるかどうかを予測」するのか、機械学習を用いて解くべき問題設定を目的の実現に照らし合わせて定義するとともに、その実現可能性を評価する力が重要になります。
機械学習をはじめとするAI技術が、’あたりまえ’の技術となりつつある今だからこそ、技術の活用そのものが目的とならないように、現場にある課題の本質を捉える力、データとテクノロジーを駆使した課題解決をデザインする力が求められるのではないでしょうか。
県内IT企業の皆様と一緒に取り組みたいこと、島根で働くエンジニアの方へメッセージをお願いします
しまねソフト研究開発センターでは、勉強会やセミナーを通じたAI人材の育成に加え、共同研究を通じたAIプロジェクトの支援に取り組んでいます。
ソフトウェアやサービスの開発に機械学習をはじめとするAI技術を適用するための基礎的な技術の習得、データとテクノロジーを課題解決につなげるための問題設定、データ統合から適用技術の検証といった不確実性への対処、等々。新たにAIプロジェクトを始める際の支援策を通じて、AI技術を活用した課題解決や新たなサービス創出の実現に一緒に取り組ませていただきたいと思っております。
プロフィール
県内のソフトウェア開発企業で15年余り勤務。ソフトウェア開発や人材育成、研究開発などの業務に従事。2015年よりフリーランスエンジニアとして独立するとともに、ITOCの専門研究員として機械学習技術のビジネス適用に向けた活動(勉強会の開催や共同研究)に従事。
【専門分野】
- 機械学習人材育成
2016年よりITOC主催の機械学習勉強会を企画・開催。
近年では、オンライン学習教材やクラウドサービスを活用しながら、企業内に機械学習チームを立ち上げるための支援に取り組んでいる。 - データ分析・機械学習の適用可能性評価
企業との共同研究において、課題解決のための問題設定から分析基盤の構築、分析活動の支援に取り組んでいる。これまでの活動は【主な研究実績】に記載のとおり。 - クラウド活用支援
2019年よりクラウド活用の勉強会やセミナーを企画・開催。
【主な研究実績】
<共同研究>
- 時系列クラスタリングを利用した未就学児の学習データ分析
- 2017年度人工知能学会全国大会(第31回)
https://www.ai-gakkai.or.jp/jsai2017/webprogram/2017/paper-784.html - EAAI-18(第18回人工知能教育推進シンポジウム)
https://aaai.org/Conferences/AAAI-18/eaai-18/
- 2017年度人工知能学会全国大会(第31回)
- 幼児教育における達成項目の予測モデリング
https://www.s-itoc.jp/activity/research/ml/857 - 高齢者のセルフスクリーニングデータ及びバイタルデータと低栄養との関係性等の分析ならびに機械学習技術を用いた低栄養高齢者の予測に関する研究
https://www.s-itoc.jp/activity/research/ml/875 - 熨斗瓦変形加工変化に関する要因解析及び機械学習の活用可能性の調査研究
https://www.s-itoc.jp/activity/research/ml/959
<勉強会>
- 2015〜2018年 機械学習勉強会(企画・主催)
- 2016年 機械学習Bootcamp(企画・運営)
平成29年度機械学習勉強会 実施報告
https://www.s-itoc.jp/report/events/2017/674 - 2019年 クラウドハンズオン講座
~ AWSを利用したスケーラブルなWebサービスの構築方法を学ぶ ~(企画・運営)
https://www.s-itoc.jp/news/notice/924