猪ミンチ

狩猟免許を取得し、松江市を中心にご活躍されている合同会社弐百円の森脇香奈江さん。
鳥獣被害対策実施隊として活動される一方、捕獲した鳥獣の加工や販売。更に最近では飲食店事業も行われてます。前回(Vol.1)は、現場(捕獲)から販売までを通して経験されている森脇さんだからこそ視点で、話題のICTについてお聞きしました。
今回は猟師のICTとジビエという事でお話を伺いしました。

「"猟師のICT"とジビエ」/ 合同会社弐百円 代表社員 森脇 香奈江 さん

こんにちは。合同会社弐百円の森脇香奈江です。前回はこちらにて、猟師の世界とICTの関わりについて書かせていただきました。
(前回の記事はこちら)

今回は猟師とは切り離せない“ジビエ”についてのことを綴ってみたいと思います。
皆さん、ジビエはお好きですか?そもそも最近よく聞くジビエとは何のことでしょう。
“ジビエ(gibier)”はフランス語が語源で、『食材となる野生鳥獣肉』を意味しています。本来、狩猟とは食肉や毛皮を得るため、限られた期間(猟期)に狩猟税を払って定められた種の野生鳥獣を捕獲すること。猟師の先輩方との会話の中で、「あの山に何日も籠って犬を追わせてイノシシを獲ったもんよ」「毎日山に入って獣道を探して何日も駆け引きしてようやく獲れた」など、いつも興味深い体験談を聞かせていただきます。(捕獲した猪)[写真1]
そして、どの先輩にも共通しているのは、獲った獲物は解体し、仲間や山の持ち主さんなどと肉を分け合って大切にいただくところまでがセットだということ。今のようにいつでもどこでも簡単に食べ物が手に入る時代ではなかったからかもしれません。


捕獲した猪
[写真1]捕獲した猪


ところが、イノシシやシカの生息数が増えすぎてしまった今、鳥獣被害を食い止めるためには猟期以外の期間にも捕獲しなければ追いつかないという状況になっています。
松江市でも有害鳥獣として1000頭近くのイノシシが捕獲されていますが、市場に食肉として流通しているのは5%程度。この数字を伝えると大抵驚き、「もったいない」という声が返ってきますが、全国的にもほぼ同様のデータ。国としてもジビエ利活用を推進する動きが盛んになってきています。(ジビエ利活用データ)[図1]

シビえ利用量
[図1]2019年までのジビエ利活用データ

 

そもそもの捕獲の目的が異なることを前提条件とした上でも、実際に狩猟の現場とイノシシの解体の現場に足を踏み入れたことで、食肉として流通させるには大きく分けて3つの要因がボトルネックになっていることがわかりました。しかし、この要因にICTの力を活用できれば、今より良い方向に進むのではないかと考えています。

  1. 解体処理施設の問題
    ジビエを食肉として流通させるためには、保健所が許可した食肉処理施設で解体処理する必要があります。この施設が少ない上、夏場は特に温度管理が難しく、施設までの距離が遠いと搬入までのところで肉が傷んでしまいます。いつ、どこで、どれだけ獲れるか分からない野生鳥獣では尚更です。しかし、ICTの力で捕獲時間と場所、頭数などが遠隔で瞬時に共有され、食肉利用可能か否かが判定できれば、今より搬入数は増やせるかもしれません。(解体記録)[写真2]

    解体記録簿冊1

    [写真2]解体簿冊

    解体記録簿冊2

    [写真2]解体記録



  2. マンパワー不足
    私もこれまで200頭近くのイノシシを解体してきましたが、いつどこから連絡があるか分からないこと、イノシシの健康状態や捕獲の仕方によって個体差が大きく、全てが食肉に利用できるわけではないことなどから、施設に常にスタンバイしていることは難しいと感じます。また、捕獲者自ら手作業で搬入記録簿を記入し、在庫管理なども手書きの帳簿で管理されていることが多く、解体から流通に伴う事務作業もなかなか骨が折れます。デジタル化することで省力化でき、より正確で安心・安全に管理できるようになることは分かっていますが、実際に関わる方々の年齢や理解度を考慮し、コミュニケーションをとりながら創っていく必要があります。

  3. 夏場のイノシシの価値の過小評価
    狩猟期間は11月中旬~2月中旬。本来、“ジビエ“としてのイノシシの旬は冬です。赤身と脂身がきれいに二層に分かれた猪肉を使ったぼたん鍋をイメージされる方も多いのではないでしょうか。一方、有害鳥獣として夏場に捕獲されるのは、無駄な脂肪がついてない筋肉質なイノシシがほとんど。猟師の先輩には「脂がなくてイマイチだわ」と言われることが多いですが、管理栄養士の資格を持つ私から見ると、これからの時代に合った素晴らしい食材。(夏場と冬場の猪)[写真3]特にヘム鉄、ビタミンB群をバランスよく含み、貧血に悩む女性におすすめの栄養価を含んでいます。現在、島根県産業技術センターさんと共同で個体別・部位別に成分分析を行っていますが、個体差の大きいジビエは一頭一頭栄養価を測定するとコストもかかるため、ICTの力を使ってもっと手軽に鉄やビタミンが可視化できる装置があればいいのに…といつも妄想しています。冬場でも夏場でも、大切なイノシシの命。喜んでもらえる人の元に届く仕組みを考え続けるが私のミッションだと思っています。(加工したジビエ)[写真4]

夏場の猪

[写真3]夏場の猪

冬場の猪

[写真3]冬場の猪

猪キーマカレー

[写真4]加工したジビエ1

猪料理

[写真4]加工したジビエ2

 

以上、ジビエに関しての課題とそれぞれICTの力に寄せる期待を書かせていただきましたが、これが全てではなく課題は山積みです。また、狩猟の世界同様、ジビエの世界もまだまだアナログな部分が多くあります。そのアナログな部分に面白さと可能性を感じつつも、今後はICTの力を上手に活用していかねばこの課題を解決していくことは難しくなっていくのではないかと危惧しています。先輩方の知恵や経験を大切に教わりながら、新しい技術や手法を組み合わせて伝承していきたいです。

プロフィール

森脇 香奈江 さん

プロフィール画像_200

合同会社弐百円 代表社員
管理栄養士・食育インストラクター
狩猟免許(第一種銃猟・わな猟)
松江市鳥獣被害対策実施隊

1981年生まれ。島根県浜田市出身。
広島にて13年間管理栄養士として従事し、2016年4月に松江市の地域おこし協力隊に着任。
協力隊任期終了前の2018年11月に同期2人で「合同会社弐百円」を立ち上げ、任期終了後も
鳥獣被害対策、商品開発、セミナー講師、イベント企画等行っている。
趣味はおいしく食べるための研究、音楽鑑賞。双子の母。

合同会社弐百円HP http://nihyakuyen.com