【技術レポート】通信ネットワークのIPv6対応
2023年01月31日
しまねソフト研究開発センターでは、IoT分野における先端技術支援や研究活動の一環として、通信ネットワークのIPv6対応におけるレポートを公開します。
背景と経緯
しまねソフト研究開発センター(以降「ITOC」)は、令和4年2月1日に島根県内のIT産業の振興および県内企業のデジタル化の推進に向けて、産業支援機関が集積する「テクノアークしまね」へ移転いたしました。この移転に伴い、ITOC内のネットワーク環境を移転構築するとともに、通信品質や長期安定性の向上およびセキュリティの強化を目的にIPv6対応を含めた再整備を行うこととなりました。
ITOCのネットワーク環境の再整備にあたり、IoT分野に関する共同研究や相談対応を行う東専門研究員が、今後のIoT分野における共同研究や実証実験にあたって要求される通信ネットワークを実現するため、IPv6デュアルスタック化を含むネットワークの設計と構築を行いました。
レポートの狙い
社会実装が進むIPv6
昨今の新型コロナウイルス感染拡大に伴い、リモートワークや遠隔授業などの多種多様なシーンでインターネットトラフィックの増大に対応するため、高品質で長時間安定的に利用可能な通信環境を実現するために、IPv6を利用したIPoE接続が急速に普及しました。また、携帯通信網においても5G化が進んでおり、IPv6対応が進展しています。Googleが公開する世界中のIPv6接続の利用状況[※1]では、全世界で42.61%に達しており、その中でも日本は46.79%となっています(2023年1月時点)。
実は進んでいない日本企業のIPv6対応
しかしながら、上記「IPv6接続の利用状況」は携帯通信網や家庭用ネットワークのIPv6対応が進んだ影響であり、実は日本企業の組織内ネットワークではIPv4 NATを利用していてIPv6対応が行われていないと言われています。総務省が令和4年度に実施した調査「我が国のIPv6対応状況に係る調査(2021年度)[※2]」によると、一般企業のIPv6対応状況はWebページは8.2%、組織内システムは3.3%の企業しかIPv6接続に対応していない状況です。同調査では、IPv6の導入において最も大きいと考える事業的課題として「わからない」 (28.6%)が最も高く挙げられ、「設備の更新にかかる手間及びコスト」(27.6%)が続いています。このことから、IPv6に対応した通信ネットワークの構築ノウハウの情報が不足するとともに、通信ネットワークの担当者はIPv4とIPv6の並行運用に伴うコスト増加やIPv6に関連する障害が発生するリスク増加等の問題があることから、本格導入に向けた決断が難しい状況にあると思われます。
IPv6対応の意義
IPv6対応の意義として、大きく以下の3点が挙げられます。
(1)通信品質と枯渇するIPv4のIPアドレス
現在広く使われているIPアドレスは「IPv4」では利用できるIPアドレスの数には限りがあるため、より多くのIPアドレスが利用可能な「IPv6」への移行が進められています。既に2011年にはアジア太平洋地域でIPv4のIPアドレスの枯渇が報告されています。アフリカ地域の枯渇は2020年以後と予想され、世界レベルでIPv4のIPアドレスの新規取得が困難な状況となっています。また、IPv6対応していないことで通信品質が低下する可能性があるとともに、その結果として安定したサービスを提供することができなくなる恐れがあります。IPv6がIPv4 よりも通信品質が高い理由として「IPv6は通信経路上のフラグメント化やチェックサム計算によるオーバヘッドがなくなるため」「IPv4は飽和状態で回線が混雑しているため」等が挙げられます。
(2)IoTデバイスの増加
総務省「令和4年度版情報通信白書[※3]」によると、2021年時点で292.7億台であった世界のIoTデバイス数は、2024年には398.5億台に達すると予測されています。この3年間で約100億台のIoTデバイスが増加するということはIPアドレスも同様に必要となるということであり、さらにIPv6対応の必要性が高まると見込まれます。
(3)インターネットトラフィックの増大
総務省「令和4年度版情報通信白書[※4]」によると、コロナ禍の2020年11月に記録した国内ブロードバンド契約者の総トラフィック量が前年同月比で56.7%も増加しています。さらに、翌年の2021年11月には前年同月比で19.3%の増加となり、高品質で長時間安定して利用可能な通信環境を実現するため、従来のIPv4/PPPoEではなくIPv6/IPoEを使ったインターネット接続サービスの需要が高まっています。
IoT時代を見据えたIPv6対応に向けて
そこで、ITOCの通信ネットワークのIPv6対応に取り組んだ本レポートを公開することで、IPv6の利用普及が進むとともに、IPv6対応を検討している企業の方、通信ネットワーク担当者にとっての一助となれば幸いです。
レポートの公開先
東専門研究員によって、エンジニアに関する知識を記録・共有するためのエンジニアコミュニティサービスである「Qiita」にて詳細なレポートを公開しています。
参考情報
※1 Google.“Google IPv6”.Google IPv6.
https://www.google.com/intl/ja/ipv6/statistics.html#tab=ipv6-adoption, (2023-01-31).
※2 総務省.“我が国のIPv6対応状況に係る調査(2021年度)”.IPv6の普及促進.
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ipv6/index.html, (2023-01-31).
※3 総務省.“令和4年度版情報通信白書”. 世界のIoTデバイス数の推移及び予測.
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nf3r1000.html#d03r1190 , (2023-01-31)
※4 総務省.“令和4年度版情報通信白書”.4. インターネットトラヒックの推移 | 白書掲載番号(2-1-1-4).
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/image/n2101040.png , (2023-01-31)
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