はじめに

しまねソフト研究開発センター(以降「ITOC」)は、県内企業が地域課題を解決するサービス・製品を開発する支援を行うため、IoT・AI関連機器の整備を行い、事業創出に取り組んでいます。
その中でも、ITOCで整備する機器を県内事業者の皆様と共同利用を行い、新たな商品やサービス創出に向けたチャレンジをサポートしております。

この度、社会福祉法人島根ライトハウス ライトハウスライブラリー様とアイトラッキングシステム(Tobii Proグラス2)の共同利用を行いましたのでご紹介いたします。

経緯

全盲ではなく、ある程度見える部分がある視覚障がい者、特に小さな穴から見るような視野障がいを持つ方にとって、足元の安全は白杖の適切に使用することで歩行時の安全性を高めることができます。しかし、すぐに「足元を見て歩く習慣」が変わるわけではなく、その修正に時間がかかる場合が少なくありません。歩行訓練士は、歩行訓練において同時に視線の使い方も指導することが重要ですが、通常の歩行訓練の際に「どこを見ているか」は視覚障がい者の視線を横や正面から見て推測する以外に方法がありません。視覚障がい者の方も不慣れな白杖の使い方に集中しなければならない中、自分自身がどこを見ていたかを客観的に知る方法がありませんでした。

そこで、アイトラッキングシステムの共同利用を行い、以下の取組内容と成果をまとめましたので、ご紹介いたします。

共同利用における取組と成果

歩行訓練士および訓練対象者(視覚障がい者)による視線データのリアルタイムな客観的評価

アイトラッキングシステムによって、リアルタイムで視線を把握できると同時に、録画データから後で確認できるために客観的な評価を実現しました。また、訓練対象者(視覚障がい者)の方と録画データ共有による振り返り・フィードバックを行うことで歩行訓練による上達を実感することができました。

具体的には、まず安全が確保された屋内の廊下を使い、PCの画面でリアルタイムに視線データを確認しながら訓練を行いました。結果、視線を前方に向けているときは褒め、足元を見ている時には前を見るよう促すなどの評価を、即座に行うことができました。

その後、屋外での実践的な訓練の際には視線データと共に録画を行ない、区切りの良いところで視覚障がい者と共に録画を確認しました。「がんばって視線を前に向けている」「足元が不安な場所では視線が下に落ちがち」などを共有・フィードバックできたと同時に、その努力や傾向を客観的に感じ取っていただくことができました。自分自身の上達を実感されて、前向きな気持ちを持って訓練を終えられたのは、良質なフィードバックの結果だったのではないかと考えています。

今後の展開

視覚障がいにおけるアイトラッキングの新たな有効性・適用可能性の検証

視覚障がいの中でも「視野の中心が見えないが周囲は見える」という見え方(中心暗点)の場合、見えにくい中心を避けるため意図的に視線を少しずらして見る「偏心視」を練習する際に「少しずらせているか」をリアルタイムかつ客観的に把握しフィードバックするツールとして、アイトラッキングの有効性や適用可能性の検証ができればと考えています。

まとめ

今回の共同利用では、アイトラッキングシステムによって視覚障がいの歩行訓練における評価・フィードバックに活用することができました。
そして視線データによって、視覚障がいを取り巻く課題解決に向けたアプローチを実践するとともに、その有効性を検証することができました。

共同利用後、社会福祉法人島根ライトハウス ライトハウスライブラリー様よりコメントをいただきました。その一部を抜粋して紹介いたします。

  • 視線のトラッキングが一部の視覚障がい者の歩行訓練に活用できると予想していましたが、Tobii Proグラス2のアイトラッキング性能は想像以上であったこともあり期待以上の結果を得られました。
  • 最新技術は障がい者の問題解決のために大きな役割を果たし、QOL(生活の質)の向上や社会参加に大きな力を発揮できるのは間違いない一方、その対象人数の少なさゆえの市場規模や収益性の問題から、その活用が進みにくく、製品となった場合も高価になり結果広まりにくいという現状があります。
  • 一方、障がい者の問題を解決しようとすることは、いわゆる健常者の生活の質を向上させる可能性があり、そこから生まれたアイデアは技術開発・製品開発の種となると感じています。
  • 今回のように最新技術を障がい分野で活用し、そのフィードバックを行なうことが何かしらの貢献になり、その結果が障がい分野と最新技術を結びつけることが出来ればと考えています。


今回、アイトラッキングシステムの共同利用ではありましたが、アイトラッキングに限らず視覚障がいにおける最新技術の活用可能性を大いに感じさせるものでした。この共同利用事例について、より詳しい内容を知りたい方は、以下よりお問合せ下さい。

今後もITOCでは、県内事業者の皆様と新たな商品やサービス創出に向けたチャレンジをサポートしてまいります。

お問合せ先

公益財団法人しまね産業振興財団
しまねソフト研究開発センター(ITOC)
担当:渡部
Phone:0852-61-2225
Email:itoc@s-itoc.jp