報告者:株式会社トルクス 山田宏道
今回視察に訪れた「Unite Tokyo 2019」は、国内最大のUnityカンファレンスイベントです。 Unity(ユニティ)は、世界で最も使われているゲームエンジンで、各種ゲームプラットフォーム、各種スマホOS等で使えるアプリを制作することができる統合開発環境です。Uniteでは、Unityの開発者による今後リリースされる新機能の説明だけではなく、ユーザーによる開発事例の講演、またユーザー同士のコミュニケーションを図るPartyもありました。同時に最大5つの講演があるためすべてを見ることはできませんが、弊社の注目している事例を中心に見聞きした内容について報告します。
イベント名:Unite Tokyo 2019
日時: 2019年9月25日(水)〜26日(木)10:00 - 19:40
場所:グランドニッコー東京
URL:https://events.unity3d.jp/unitetokyo/
主催:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社
Unityの最大の特徴は、3DCGを駆使したソフトウェア開発をしやすいということと、多種多様なハードウェア向けのソフトウェアを開発できることです。基調講演での情報によると、世界中のモバイルゲームの半分がUnity製であり、全アプリのインストール数を合わせると世界人口の3倍の280億になるとのことです。これはUnityを使えるということが、ソフトウェア業界において重要となってきていることを示しています。
最初は3Dリアルタイムのゲームエンジンとして始まったUnityも、今は、アニメ制作のツールや、医療シミュレーションソフトの開発ツールなど、その利用価値はどんどん高まっています。このような発展は、Unity Technologies社がUniteのような開発者向けのイベントを世界各地で毎年開催し、開発者の意見を吸い上げ、さらにUnityの機能追加として還元していく、というサイクルが功を奏した結果であると思われます。
今回のUnite Tokyo 2019でも、様々な分野でのUnityの活用事例を聞くこともできたので、報告したいと思います。
位置情報に関係する最近の技術動向の中で印象に残ったものを紹介します。
Unityの最大の特徴は、3DCGを駆使したソフトウェア開発をしやすいということと、多種多様なハードウェア向けのソフトウェアを開発できることです。そのため、VRやARなどの開発者はUnityを使うシーンが多くなります。
MR(Mixed Reality)グラスの代表格であるMicorsoft HoloLens、そして今年docomoとの資本・業務提携が発表されたMagic Leap One。この二つが本イベントのイメージを作っていました。
docomoはMagic Leap Oneの4つのコンテンツを体験できる体験ブースを用意していました。Magic Leap Oneは技適の関係で国内未発売のデバイスです。9月にようやく技適が取れたというニュースが出たばかりなので、開発者は整理券を求めて次々と体験していました。体験ブースには技術の分かる人もおり、詳しく技術仕様などを聞くことができました。
ヘッドセットのサイズが頭のサイズに合わせて2種類あること、眼鏡をしたままの装着はできないが、代わりに度入りのレンズを入れることである程度の対応はできること、などは実際に体験もできました。
Magic Leap Oneのコントローラの自由度が高い(6DoF)ことも分かりました。ハンドジェスチャーによる操作もよいのですが、安定感となるとやはりコントローラを使うことも考えたほうがよさそうです。
一方、Microsoft HoloLens 2は、一般参加者は体験できませんでしたが、Microsoftの講演で実際に使っている様子を見ることができました。Microsoftの総力を結集したデモは具体的にビジネスに使えるシーンがはっきりと見えて、さすがに一日の長があると言わざるを得ません。Azure Spatial AnchorsはHoloLensだけではなくiPadなどでも使え、デバイスに頼りすぎない現実的なソリューションを生み出すと思われます。
Unityは現在も進化の過程にあり、どんどん新機能が追加されています。そのUnityが推し進めようとしている技術の一つがDOTS(Data-Oriented Technology Stack)です。
簡単に言うと、大量のオブジェクトを処理するための実装です。実行デバイスの搭載メモリが大きくなってきた今の時代に、より高速な処理をするためにメモリ管理から見直した仕組みです。ただ、DOTSは構造体を使用する(=クラスは使えない)ので、実装の考え方を変える必要がある、というのが難点です。
構造化プログラミングからオブジェクト指向へ移り変わったときのような変化ではありますが、よりよいユーザー体験を得るコンテンツを作るためには避けては通れない仕組みとなりそうです。
「学生向けUnity教育の導入事例」という、Unityを教育現場で使っている事例紹介講演もありました。立命館大学と女子美術大学、そしてもう一つの事例が「恵比寿Unity部」というものでこれがとても興味深いものでした。
ボランティアでやっており、参加者は無料でUnityを学べる場。と、ここまでは全国でも見かけるものだと思うのですが、対象者と目的が独特でした。
対象者は「何らかの事情がある中学生~社会人若手」で、例えば引きこもりだったり、ひとり親だったりする人に教えているらしいです。その目的は「負の連鎖の解消」であり、「将来の食い扶持のため」なのです。決して「教育」ではない、というところがとても興味深いし、ソフトウェア開発を生業としている私としても共感できるところが多い事例でした。
プログラムで生きていくためには、学びやすく、また現場で実際に使われているというものとしてUnityは最適といえるでしょう。
この「恵比寿Unity部」をやっておられる伊藤さんは元Unityの人ということもありますが、Unityの可能性を、地方に住む人にも伝えられるような気がしました。
琉球大学医学部脳神経外科 宮城先生による「手術革命がUnityから始まっている~VR活用事例と開発」もショッキングな講演でした。
宮城先生ご自身が、現役の脳外科医であり実際に手術をされています。その一方、若手の育成やトレーニングのためにVRコンテンツを作りたいという思いで、Unityを使ってVRコンテンツを作っている、というのが今回の講演の話。Unity標準の機能やAssetの機能では足りないところは、なんとCGの論文を読み、自分でプログラムを書いて実装しているとのこと。
Unityの使いやすさは根底にはあるとは思うものの、拡張していくというのはもはやソフトウェアエンジニアの仕事です。ソフトウェアエンジニア一本でやっている自分としては、その精力的な活動に大変刺激を受けました。
会場には様々な企業がブースを出展していました。気になったところを紹介します。
カメラを配置した3D全身スキャナーを出展しており、参加者は無料で全身スキャンしてもらうことができました。撮影は一瞬で終わるのですが、そのあと若干調整されてからsketchfabに公開されました。
このような全身スキャンのサービスは以前から出てきていたのですが、DiGITAL ARTISAN社のはユニット化しており、今回のようなイベントに出展しやすくしているのが特徴です。今回も2日間で300人以上をスキャンしていました。
一般の人がデータをもらってもどうするか、と悩むところですが、Uniteのような開発者向けイベントでは面白い試みです。今後の展開が気になります。
土台にアームでつながったペンを動かすと、それが3D空間上での姿勢をそのまま再現できるデバイスです。アームでつながっていることと、ペン部分を振動させることができるのが特徴で、重さやザラザラ感、粘性などをフィードバックできます。
医療分野や、加工分野など、シミュレーションシステムの入力デバイスとして可能性を感じました。
これらの他にも、Googleが始めようとしているストリーミングゲームプラットフォームStadia向けの開発の話(非公開)を聞けたり、トヨタのxR活用事例を聞けたりしました。このような最先端の話をたっぷりと聞くことができるだけでなく、1日目の最後に開催されたパーティーに代表されるように、参加者同士のコミュニケーションがあるのも、Uniteに行くメリットです。実際、今回もいろいろな方にお会いできて、さらにそこで情報交換したりしていけました。
現実で会うことの重要さも感じつつ、こういうカンファレンスもVRで代用できる未来を期待しているのがVRエンジニアとしてちょっと複雑な気持ちです。
今回のUniteでは多くの講演が資料や動画を公開しています。興味ある方は是非ご覧ください。また、私が感じたことや知見は、今後、県内で開催していく勉強会などで広めていきたいと思います。
Unite Tokyo 2019 講演動画・スライド
https://learning.unity3d.jp/event/unite-tokyo-2019/