【調査報告】ドローンと画像診断AIを用いた橋梁点検
老朽化が進む社会インフラの適切な維持管理手法の確立に向けて、橋梁点検におけるドローンと画像診断AIを活用した取り組みを紹介します。
老朽化が進む社会インフラの適切な維持管理手法の確立に向けて、橋梁点検におけるドローンと画像診断AIを活用した取り組みを紹介します。
しまねソフト研究開発センターでは、「ITOCminiLab」と称してドローンやXR技術を用いた機器等を整備、島根県内事業者と共同で利活用することで、新たな製品やサービス創出の支援を行っています。その取組の一環として、社会インフラの調査を事業とする株式会社サンテクノス、ドローンの空撮・測量を事業とする株式会社SWIFT(ITOCminiLabのドローンに関するアドバイザー)との共同で、老朽化が進む社会インフラの適切な維持管理手法の確立に向けて、橋梁点検におけるドローンと画像診断AIの活用に向けた取り組みを行いましたので、以下のとおりご紹介します。
<目次>
▼はじめに:老朽化する社会インフラと維持管理に向けた点検業務の現状
▼取組目的:ドローンと画像診断AIを用いた橋梁点検の評価検証
▼取組内容:ドローンの写真測量と画像診断AIの変状検出データ生成・評価
▼取組結果:橋梁点検におけるドローンの適用範囲と変状検出データの品質
▼まとめ:社会インフラの維持管理に向けた新技術の導入と活用に向けて
▼取組事業者のコメント:株式会社サンテクノス / 株式会社SWIFT
日本における社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備され、今後急速に老朽化が深刻化することが懸念されています。今後20年間で、建設後50年以上経過する施設の割合は加速度的に高くなる見込みであり、このように一斉に老朽化するインフラを戦略的に維持管理・更新することが求められています。国土交通省(※)によると、2018年から2033年における社会資本の老朽化の推移として、道路橋は約25%から約63%、トンネルは20%から約42%、河川管理施設は約32%から約62%になると将来予測をしています。
そこで、国や自治体では社会インフラの定期点検の義務化、そしてその点検内容の厳格化を進めています。しかしながら、現在の点検業務では、近接目視による損傷確認、写真撮影やスケッチによる記録、報告書作成などがあり多くの作業時間を要しているのが現状です。また昨今の人材不足問題から点検技術者も不足しており、点検業務の効率化に対するニーズは高まり続けています。
※ 国土交通省, インフラメンテナンス情報「社会資本の老朽化の現状と将来」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html
日経コンストラクション(2022年4月号)によると、建設コンサルタントを対象に「自社で導入して業務効率化に寄与している技術」を複数回答で訪ねたところ、最も多かったのは「ドローン」であり、76%の会社が挙げています(有効回答数は2022年が216、2020年が202)。このことから、業務の効率化に向けて新技術の導入が進みつつある状況にあります。
今後、最も老朽化が加速度的に進む道路橋において、橋梁点検の業務効率化や省人化・安全性の向上を実現するため、ドローンの写真測量と画像診断AIを用いた実証実験を行い、定量的な効果検証に取り組みました。具体的には、ドローンを用いて橋梁の写真撮影(写真測量)を行うとともに、その写真データから画像診断AI(画像計測技術)を用いて橋梁の損傷や劣化などの変状検出データを生成します。それにより、橋梁点検の業務に必要な変状検出の可否とデータの精度・品質の評価検証を行いました。
この評価検証の結果を広く公開することにより、橋梁点検の効率化や社会インフラの適切な維持管理に向けて、ドローンおよび画像診断AIといった新技術の導入、社会実装を促進することを目的としています。
本取組では、以下の取組を行い、目的実現に向けた評価検証を行いました。
株式会社サンテクノス | |
取組概要 | 画像診断AIによる変状検出データの生成、変状検出データの評価検証 |
会社概要 | 島根県松江市を本社として、関東・関西・中国地方を中心に全国7拠点で非破壊検査やコンクリート構造物の検査を事業とする。その中でも、社会インフラの調査事業として、構造物の長寿命化、耐震化、環境及び安全といった保全業務を行い、橋梁点検や道路付属物点検を実施する。 |
株式会社SWIFT | |
取組概要 | ドローンによる橋梁の損傷・変状検出に向けた写真撮影(写真測量) |
会社概要 | ドローンの空撮・測量、農薬散布を事業とするとともに、ドローンパイロット養成スクールとしてJUIDA認定スクール・農水協認定マルチオペレーター教習所を運営。ITOCminiLabではドローン機器や利活用に関する技術相談を行うアドバイザーとして活動。 |
近接目視によって損傷確認を行っている橋梁を対象として、画像診断AIによる変状検出を行うためにドローンによる写真測量を実施しました。橋梁点検では、点検者は橋梁の各部位をあらゆる角度から確認するため、ドローンで撮影するカメラは上向きカメラを選定しています。ドローンの写真測量データは、下記表1による撮影仕様のとおり。なお、今回ドローンによる写真測量を行った橋梁は下記表2のとおり。
カメラ | Zenmuse H20T(撮影したドローン機種:Matrice 300 RTK) |
カメラ画素数 | 2,000万画素 |
撮影設定 | マニュアルモード |
ISO感度 | ISO200 |
ラップ率 | オーバーラップ30%以上、サイドラップ30%以上 |
シャッタースピード | 床板撮影時(晴天時500lux以上):1/240秒以上 橋脚撮影時:Auto設定 |
撮影角度 | 正対(被写体表面の法線ベクトルに対し概ね±20°以内) |
画質 | 最高(ファイン・スーパーファイン等) |
画像フォーマット | JPEG |
No. | 橋梁名 | 所在地 | 損傷状況 |
1 | 奥谷橋 | 松江市島根町大芦 | ひび割れ |
2 | 石井橋 | 松江市鹿島町上講武 | ひび割れ |
3 | 桑並川橋 | 松江市八雲町西岩坂 | ひび割れ、剥離、遊離石灰、漏水 |
実際にドローンによる橋梁の写真測量を行った際の様子は、以下のとおり。
今回、画像診断AIによる変状検出データの生成として、富士フィルム株式会社の社会インフラ画像診断サービス「ひびみっけ」を使用しました。「ひびみっけ」は、画像解析技術を活用してコンクリート構造物の定期点検や補修において損傷図の作成などを支援するクラウドサービス型システムです。橋梁をはじめコンクリート構造物のひび割れを画像データから自動検出し、CADデータに出力することで点検作業を大幅に効率化するものです。画像データはドローンでの撮影画像を利用することも可能であり、本件の目的とも合致することから選定しています(下記表3を参照)。
ソフトウェア名 | 富士フィルム株式会社・社会インフラ画像診断サービス「ひびみっけ」 |
技術Ver | Ver1.3 |
対象部位 | 上部構造(床版等)/ 下部構造(橋脚、橋台等)/ 点検施設 |
検出可能な変状 | ・ひび割れ(幅および長さ) ・剥離、鉄筋露出、遊離石灰、漏水 |
上記に基づき、「ひびみっけ」を用いて下記の手順にて変状検出データ生成を行いました。
1. ドローンで撮影した画像を正対画像および1径間、部材毎でつなぎ合わせ(自動:スティッチの作成)。
2. ひび割れの自動抽出およびスティッチ画像でクラックスケールと比較を行う(自動および手動)。
3. 自動で抽出したものは、目視で確認(手動で消去および追記が可能)。
4. 損傷画像でひび割れ以外の変状については、目視にて撮影画像を確認(手動で抽出可能)。
上記手順によって生成された変状検出データは、以下のとおり。
▼奥谷橋(1枚の画像データで変状検出データを生成)
[検出した変状]ひび割れ
▼桑並川橋(15枚の画像データを合成して変状検出データを生成)
[検出した変状]剥離、鉄筋露出、遊離石灰、漏水
上記2.によって生成された変状検出データの品質・精度について、下記表4のとおり評価を行いました。併せて、橋梁点検における業務効率化や点検コストの削減、安全性の向上といった効果が得られるか評価を行いました。
評価項目 | 要求精度 | 評価手法 |
ひび割れ | ひび割れ幅:0.2mm ひび割れ長:1cm | 表2の画像データを用いて、上記(1)で示す「ひびみっけ」による「ひび割れ幅」および「ひび割れ長」を計測する。 併せて、道路橋点検士による近接目視および定点撮影を行った単写真(画像データ)を用いて、比較検証を行う。 |
剥離、鉄筋露出、遊離石灰、漏水 | 1cm | 表2の画像データを用いて、上記(1)で示す「ひびみっけ」によって、変状内容と変状範囲、個所数を計測する。 併せて、道路橋点検士による近接目視および定点撮影を行った単写真(画像データ)を用いて、比較検証を行う。 |
画像診断AIによる変状検出データの評価検証を通じて、実際に橋梁点検での活用に向けた観点から、以下2点の気づき・学びが得られました。
画像診断AIによる変状の検出精度(奥谷橋)
変状検出データ生成に係るコスト
実施内容によって得られた知見と効果、明らかとなった今後における課題は以下のとおりです。
(得られた知見と効果)
(今後の課題)
(得られた知見と効果)
(得られた知見と効果)
今回の検証を通じて、ドローンの写真測量データおよび画像診断AIを用いることで、橋梁点検における業務効率化、点検コストの低減、安全性の向上といった効果が見込まれました。特に、橋梁点検の中でも詳細点検における変状検出や点検調書の作成支援に対して、大いに効果が発揮されると考えられます。その反面、全ての橋梁点検で有効活用されるとは言い難く、点検対象の橋梁サイズや環境、損傷具合によっては従来の点検手法が望ましいケースも考えられます。また、写真測量を行うドローンの機体やカメラの性能といった一定の仕様要件を満たすことが前提となります。加えて、画像診断AI(今回は「ひびみっけ」)のデータ仕様に基づく必要があるため、画像診断AIによるデータ生成には注意が必要であるとともに、知見とノウハウが必要となります。
今後、ドローンや画像診断AIにおける点検精度と品質が、近接目視と同等の健全性の診断を行うことができると広く認められれば、加速度的にデジタル技術導入が進むとともに橋梁点検における業務効率化や点検コストの削減が見込まれます。さらに、ドローンによって測量された写真や3次元モデルがデータベースに蓄積されることで、今後の社会インフラの適切な維持管理に大いに役立つことと期待されます。さらに、ドローンや画像診断AIの発展により、近い将来には社会インフラに限らず、建築物設備などの施設管理に関わる多くの点検業務に活用される段階に来ており、それぞれの分野で実用化や有効活用のノウハウが必要になると考えられます。
今回の取組結果を踏まえて、ドローンと画像診断AIをはじめとしたデジタル技術の活用を推進するとともに、取組の成果公開によって県内企業の皆様における新たな取組の一助となれば幸いです。本件に関する詳細な内容について、興味・関心やご不明点がありましたら下記へお問合せ下さい。
* 本内容に掲載されている情報は2022年6月末時点のものです。
株式会社サンテクノス(担当:橋梁点検における画像診断AIで変状検出データの生成・評価検証)
株式会社SWIFT(担当:ドローンを用いた橋梁の損傷・変状検出に向けた写真測量)
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担当:渡部
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