報告者:株式会社トルクス 山田宏道
今回視察に訪れた「コンテンツ東京」は、8つの展示会で構成される最大級のコンテンツビジネス総合展です。 弊社の中心事業であるVR/AR/MR関係の技術や関連サービスが多く出展されていた「先端デジタルテクノロジー展」を中心に見て回りましたので、その内容について報告します。
イベント名:第5回 先端デジタルテクノロジー展
日時: 2019年4月3日(水)〜5日(金)10:00 - 18:00
場所:東京ビッグサイト
URL:https://www.ct-next.jp/ja-jp.html
主催:リードエグジビションジャパン株式会社
VR/AR等の技術は、2016年にOculus Riftをはじめとした様々なVRデバイスがリリースされ「VR元年」としてもてはやされた後、ハードウェア的には踊り場状態にありました。しかし、今年に入って新プロダクトの発表/発売ラッシュが続いています。その主なものは、Oculus Questなど、インサイドアウトトラッキングをベースとし、PCレスで部屋を歩ける "6DoF" を実現しています。 今回の展示では、こうしたVRゴーグルによる視覚だけではなく様々なフィードバックを実現するデバイスや、VRゴーグルではない映像提示デバイスが見かけられました。VRゴーグルの閉じられた体験より開放感のある体験、一人の体験より多人数での体験への可能性などを感じられました。
まず、特に目立った技術や機器の展示を紹介していきます。
液晶ディスプレイに数cmの厚みがあるガラスをくっつけ、裸眼で立体に見える表示デバイスです。
45視点分(縦に5視点、横に9視点)の画像を同時に表示し、それを実際の視点に合わせて見えるようにレンズで屈折させて表示させている仕組みです。これまでプロモーション動画等を見ていましたが、今回の展示で初めて実物を見ることができ、その立体感には驚きました。
本展示会とは別になりますが、3月に東京ではLooking Glassを使用したハッカソンが行われ、本展示会の会期初日の夜にそのハッカソンで作られた作品を見ることができるイベントが開催されていました。そこでは様々なデバイスを組み合わせたり、複数のLooking Glassを使用したコンテンツを体験できました。とても可能性を感じるデバイスです。
F6 SMARTは、1回の撮影で奥行き方向に4m、幅5mのエリアを計測できるハンディ3Dスキャナです。この広さを8fpsという速度で処理できるため、目の前のちょっとした空間、また車のようなちょっと大きめの物体であってもスキャンできます。
赤外線による形状計測と同時に色もスキャンできるので、そのまま3Dオブジェクトとしてコンテンツの素材に持ち込むことができます。
最大の特徴はこの製品に含まれるソフトウェアです。1度撮影して、PCで確認した後、あとから足りないところを追加で撮影、という流れでも全く問題なく撮影できます。複数回撮影した点群データを、大体正しい場所に配置すると、ソフトウェア側で正しい場所に配置してくれる機能もデモしてもらいましたが、これがあるだけでとても実用的に感じました。
VRやARなどで必要性が高まってきている3Dモデル制作ですが、このような3Dスキャナを使うことで制作期間を短縮し、クオリティアップができそうであると感じました。
"GVS"とは前庭電気刺激(Galvanic Vestibular Stimulation)の意味で、左右の耳の後ろあたりに電流を流すことでバーチャルな加速度を体感できる技術とのことです。大阪大学情報科学研究科初のチーム Trance によって開発されています。
展示会では、GVSを装着し、ジェットコースターVRコンテンツに左右の加速度を感じることができる体験ができました。効果を与えられるときには、確かに左右に移動している感じを受けました。
展示しているチームメンバーによると、VRゴーグル内での移動時に合わせて刺激することでVR酔いを軽減したりするようになるらしいです。
本製品は4Kタッチスクリーンです。展示されていたのは直径80cm弱の球体で、内部の下方からプロジェクションしているらしいのですが、見た目にははっきりした映像が見えていました。
タッチの感度も非常によく、マルチタッチ対応なので両手による操作なども可能でした。色々なコンテンツを表示していましたが、面白かったのは、球体を分割し、対面している二人が別の操作をできるようなデモです。これはこれまでにない体験で、単にタッチスクリーンを二つ合わせたものとは別の感覚がありました。
デモにしてはUIもよく練られており、このような製品では、特化した新しいUIを考えることで突然よくなる可能性がありそうだと感じられました。
本製品は、頭上に設置した機械から下方にミストを噴射し、そこに映像を投影します。と、文字で説明するだけならシンプルな印象なのですが、今回はさらにKinectを組み合わせたインタラクティブなコンテンツを展示しており、空中にあるコンテンツに触ることができ、通り抜けられる感じが新体験のデバイスでした。
このデバイスはエンターテイメントの演出にはすぐに使えそうですが、街角でこのようなスクリーンがあったらとても面白いだろうな、と想像力をかきたてられます。
超音波を多数並べて、それらを制御することで、空中にある手のひらなどに直接刺激を与えることができるデバイスです。ユーザはグローブや特殊デバイスを身につける必要ないのが特徴です。
実際には面に触っている感じではなく、手のひらを点で刺激されているようなデモでした。UIの補助的にいろいろな製品に組み込むことで新しい可能性が見えてきそうです。
本展示会では事前予約制の毎日講演がありました。私も予約して3日間で6個のセミナーを聞きましたが、その中で特に印象に残ったものを紹介いたします。
佐々木紀彦氏((株)NewsPics)、落合陽一氏(ピクシーダストテクノロジーズ(株))、鈴木おさむ氏(放送作家)、という3人のセミナーで、それぞれ一人ずつお話しされた後にパネルディスカッションするというスタイルでした。
技術は5Gの到来など予め分かることが多いし、そこまで未来予測は外れない。しかし、全く読めないのはコンテンツ。これからは、メディアよりも、コンテンツを提供するクリエイター、プロダクションが強くなっていく時代になる、という意見で一致していました。
地上波からAmebaTVなどに流れたり、メディアはこれからはますます多様化していくが、結局はコンテンツが一番、というところに行きつくというのです。そこでうまくお金の流れをつかんだものが安泰、という流れになりそう。セミナーではクラウドファンディングは厳しく、どちらかというとサブスクリプション型の流れを残っていくのでは、という意見が出ていました。
今の日本のコンテンツの最前線を見ている方たちの話はとても刺激的で、あっという間の1時間半でした。
中村伊知哉氏、川田十夢氏(AR三兄弟)、東市篤憲氏(A4A(株))という本当のトップクリエイターのセミナーでした。
このセミナーで一番印象的だったのは、中村氏が進めているという「竹芝CiPスーパーシティ構想」と「iU構想」。
前者は、竹芝にあらゆる先端デジタル技術の特区を作るというもの。後者は、2020年に開学予定のi専門職大学、とのことです。両方とも東京に作り、日本中、世界中から人が集まるような仕掛けに賛同してくれている人がどんどん増えているらしいです。iUでは全員がi株式会社に入社しつつも、全員が4年間に一度は起業する、というルールを定めていたり、「ICT x ビジネス x 英語」という誰もが足りないと思っている人材育成のど真ん中を狙っているのが素晴らしいと感じました。
「現在の法律では」とか「教える人が」という言い訳をしないでどんどん未来志向で進んでいく姿勢は見習いたいと思います。一方、地方でしか見えないことがあると考えているので、私はそこを見据えて狙うべきところは狙っていきたいと刺激を受けました。
私自身が開発者であるため、よく行く技術系カンファレンスとかと違い、営業向けのツールなどが多くあり、技術からそれがサービスとして広く認知されつつあるところまで、幅広い展示を見ることができるのがとてもよかったです。
また、展示されている技術も幅広く、まだまだ未開拓で粗削りなものから、昨年まで盛り上がっていたがここにきてちょっとあまり成長が見られないものまで見ることができました。このように、表に出てくる技術の浮き沈み、トレンドを感じることができるのも、展示会に直接足を運ぶメリットであると思います。
今回見つけた新しい技術が今後どのようになっていくのか、自分でも追いかけ予想しつつ、来年以降答え合わせをしていきたいです。